【資料】【旧枠モダン】Deck tech 白単コントロール
(本記事は狐の社・二社目閉鎖に伴い消滅してしまう記事を、管理人の許諾を得て全文を転載したものです。)
GP秋葉原のメタは再三言われるように混沌そのものであった。
各々が探求した“最強”を表現するこの舞台で、白系コントロールを選択した者はどれだけいただろう。推測されていたメタゲームから外れつつも、完封に近い形でメインゲームを取ることのできるパワーを持つ。そんな“原石”、白系コントロールを発掘できたものはどれだけいただろう。
その中でも特に奇抜なデッキを使用していたプレイヤーがいた。
柏の旧枠モダン研究チームの一人であるヒヅキが持ち込んだ白単コントロールと対峙した対戦相手は絶望の表情を浮かべていた。それを見た筆者は思わずそれをファインダーに収める。「絶対に勝てない」、その場にいた誰もが直接言いはしなかったが、そう心で感じることのできる凄惨な場が広がっていたのだった。
▲クリーチャーのどれかが《罠の橋》と《物語の円》と《氷の干渉器》を抜けたとしても、3枚の《砂漠》と《鋸刃の矢》で瞬く間に撃ち落とされてしまうだろう。
「すごいデッキがあった」
「完封されてしまった」
「壮絶なサイドボードだった」
この白単コントロールは会場内でそんな断片的な情報と共に語られ、GP秋葉原が終わる頃にはほぼ全ての旧枠モダンプレイヤーが知る所となった。
同人フォーマットでありながらも大々的に行われ、小さくともひとつの大会として成立させようと奮闘するスタッフの尽力が功を奏し、GP秋葉原を境に旧枠モダンは人から人へと少しずつではあるが広がりを見せている。GP秋葉原に行くことができなかったプレイヤーと、これから旧枠モダンを始めようというプレイヤーのためにも、この場で“Deck tech”の名を借りてこの独創的なデッキを紹介するとしよう。
ヒヅキの「白単アーティファクトコントロール」/ 2018/4/15 GP秋葉原TOP8
土地 23
4 《近づきがたい監視塔/Forbidding Watchtower》
4 《砂漠/Desert》
15 《平地/Plains》
クリーチャー 5
2 《鋼のゴーレム/Steel Golem》
3 《宝捜し/Treasure Hunter》
エンチャント 6
2 《聖なるメサ/Sacred Mesa》
4 《物語の円/Story Circle》
呪文 8
4 《神の怒り/Wrath of God》
4 《今わの際/Last Breath》
アーティファクト 18
4 《精神石/Mind Stone》
2 《星のコンパス/Star Compass》
2 《友なる石/Fellwar Stone》
4 《罠の橋/Ensnaring Bridge》
2 《氷の干渉器/Icy Manipulator》
4 《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
サイドボード
4 《石臼/Millstone》
3 《道化の帽子/Jester's Cap》
3 《象牙の仮面/Ivory Mask》
2 《解呪/Disenchant》
2 《沈黙のオーラ/Aura of Silence》
1 《名誉の道行き/Honorable Passage》
▲以上がこのデッキの全貌である。並外れたデッキではないだろうか。
旧枠モダンは絶妙なバランスで成り立っているフォーマットだ。
文句なしに強いカードが少なく、(一部の恵まれた部族デッキを除いて)色を少なくしたならば相応にデッキパワーを下げる必要が出てくる。強いデッキを組みたいならば安定性という一面をある程度諦める覚悟をもって色を増やさなければならない。
これはコントロールデッキにおいて顕著な傾向が見られる。理由としては、ロングゲーム上等の構築をするためタップインデュアルランドの採用ができ、比較的小さなリスクで多色化が可能な上、多色化する事によってデッキの穴を埋める事ができるからだ。ジェスカイコントロールなどがその良い例であろう。
▲カード単体として見ると非常に弱いが、大変貴重な二色ランドなのである。
…といった事情もあり、コントロールデッキの色が増えたというケースはありふれたものであるが、調整の結果色が減ったという話はさほど聞かない。
このデッキはどういった経緯で白単色でコントロールをすることになったのだろうか。製作者であるヒヅキ氏へのインタビューを交えて解説していこうと思う。
――「…というわけで、インタビューを始めさせていただきます。白単でコントロールというのはかなり異質に思えますが、白単になった理由を教えていただきたいです」
ヒヅキ「それは勿論、他の色が必要ないからだね」
――「青の打消しや黒の除去が無くともコントロールしきれる自信があった…という事でしょうか」
ヒヅキ「そう。最初は青白コントロール、というかミルストーリーから構築を始めたんだけど、除去は白のものも十分強いし、カウンターを切らないといけないカード自体が少ないんだよね。大体は通してもその後どうにかできる。ドローも《罠の橋》と相性が悪いし、調整していくうちに青は要らないなと」
このインタビューにおいてヒヅキは《罠の橋》《物語の円》《神の怒り》で多くのデッキは止めることができ、それ故に色を足すデメリットが目立つと言っている。相手のエンドに《聖なるメサ》や《物語の円》を全力で起動する際にも三色デッキだとペインランドから1点支払わなければならないだろうし、コントロール同型戦でドローを撃てばそれだけライブラリーアウトが近づいていく。《砂漠》を4枚採用できるのも多色デッキにはない利点だ。
▲これらのカードは白単だからこそ、より力を発揮することができる。
――「かなり細かいシナジーや調整の痕が見られるデッキですよね。このデッキのシナジーについて語ってもらえませんか?」
ヒヅキ「例えば《精神石》なんかのマナアーティファクトが8枚も入っているけど、これは《神の怒り》《鋸刃の矢》《氷の干渉器》の4マナ域へジャンプしつつ、《罠の橋》を機能させるために手札を使い切るのを早める事ができる」
――「なるほど。《精神石》以外の《星のコンパス》や《友なる石》はあまり強いカードに見えませんでしたが、そう考えると8枚採用も頷けますね。《宝捜し》の使用感はどうでしたか?」
ヒヅキ「良かったよ。このカードは強い。《宝捜し》が本当に輝くのはサイド後なんだ。見ての通り《道化の帽子》を使い回せるからね」
《宝捜し》で《鋸刃の矢》を使い回す動きはアグロデッキに対する強力な一手となり、また《精神石》でカードを引いたり、壊された《罠の橋》を貼りなおすこともできたりと、《宝捜し》は状況に応じた非常に柔軟な動きができる一枚だ。サイドボーディング後はその役割が一変し、《道化の帽子》連打によって相手のキーカードを抜いていく。この動きはコンボデッキ全般への対策になる上、勝ち手段を数枚のカードに頼るコントロールデッキに対しても有効だ。果たしてこのシナジーと《宝捜し》の強さに気付いたプレイヤーはどれだけいただろうか?
▲旧枠モダンプレイヤーたちが感嘆した《宝捜し》。その発想はなかった。
――「《道化の帽子》を使い回す動きはかなり話題になっていましたよね」
ヒヅキ「まぁそれでもアネックスワイルドファイア相手に手札に最後の1枚の《シヴのヘルカイト》を持たれて負けたりしてたんだけどね」
――「それはまぁ、噛み合いですよね…。流石に《道化の帽子》を二度も三度も使われたら多くのデッキは黙ると思いますよ。さて、一見弱点の少なそうなデッキに見えますが、ヒヅキさんの考えるこのデッキの弱点はどのようなものですか?」
ヒヅキ「今回のトップ8だとアネックスワイルドファイアはキツいかな。打消しがないしね。あとはクロックパーミッションがいるんだよね※?あれも駄目だ。《消えないこだま》や《石臼》みたいなカードも厳しいかな。これはサイドに《象牙の仮面》を取っているけど、《罠の橋》軸のデッキが意識されて今後コントロール側のプランがライブラリーアウトに寄ってくるとかなり嫌だね」
※《空飛ぶ男》《トゲ尾の雛》等を《巨大化》系スペルと《マナ漏出》などのカウンター、《ブーメラン》などで補佐する「グランビル」の事を指していると思われる。
――「今回優勝のゴブリンに対してはどう見ていますか?」
ヒヅキ「安定して勝てるわけじゃない。直前で《ゴブリンの戦長》が増えたのはかなり痛かったね。あれから《包囲攻撃の司令官》って流れは流石にキツイ。パワー1と2だしね。《今わの際》を4枚に増やしたから十分対応はできると思うけどね。サイド後の《魔力のとげ》もかなり痛いね」
――「なるほど、やはり強いと」
ヒヅキ「まぁ、頭一つ抜けてる印象だね。とはいえ今回でゴブリンが強いのは周知されたから強烈にメタられていくと思う。白単でもまだまだガードを上げる余地はあるよ。今回は採用しなかったけど、飛んでもいないし山渡りも効かないから《精油の壁》なんかはかなり安心できるだろうし。《ウルザの鎧》あたりの詰むカードもあるし」
▲まだまだメタる余地はある。ゴブリンの存在感が強くなればこれらのカードも顔を出すだろう。
――「まだまだ構築も発展途上ということですね。今後メタゲームに対応した型が出てくるのが楽しみになりますね。では最後に今後の旧枠モダンのメタゲームについて更に詳しくお聞きしてもよろしいですか?」
ヒヅキ「さっき言ったようにゴブリンが頭一つ抜けて強いからゴブリンvsコントロールの構図にはなると思うな。コントロールは対コントロールをどれだけ意識するかが重要になってくるはず。《罠の橋》にも《物語の円》にも引っかからない勝ち手段が必要だよね。ライブラリーアウトや《苛性タール》みたいなカードは強いかもしれないな」
ヒヅキ「スペルも生物も強いものが限られている中、置物がめちゃくちゃ強いものが多いっていう旧枠モダンの特徴が今回周知されたと思う。置物対策はかなり重要視されることになるんじゃないかな。ただ《解呪》や《帰化》をメインに積むわけにもいかないから、ここがどうなるかだよね。《化膿》でもあれば違ったんだけど。ここにどう折り合いをつけるかが難しくて、面白い所でもあるね」
――「メインに置物対策を積むのが難しいというのが旧枠モダンの現状ですからね。まだまだ発展途上の旧枠モダンでは、メタゲームが確立されたここからが本番でしょうね。本日は貴重なお話をありがとうございました」
《罠の橋》と《物語の円》を携え、ゴブリンと共にメタゲームの先駆者となった白単コントロール。多くの旧枠モダンプレイヤーが賞賛したこのデッキは、狭い旧枠モダン界隈で無視できない存在になっていくだろう。
(元記事掲載日時:2018/04/30)